Hail Hail
現在絶賛公開中、スコットランドの今が見えるT2 トレインスポッティングを観よう
90年代のサブカル、ドラッグ、音楽、ファッション、デザインのエポックメイキングとなった映画、トレインスポッティングから20年、主役の4人がそのまま20年を過ごした後の設定としてファン待望の#T2 トレインスポッティングが、現在全国で公開中です。
僕も実際に初めて見たのは映画館で衝撃を受けて、、、と言いたいところですが、ちょっと出遅れてレンタルビデオ(当時はDVDなかった)で見ました。
正直、最初あんまりいい印象があったわけではないんです。
(特にトイレのシーンやオーバードーズで意識混濁状態、禁断症状のフラッシュバックのシーンとか)DVDを購入して、噛めば噛むほど(見れば見るほど)はまって行きました。
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映画好きとしては、前作との関連性、シーンとストーリーのシンクロ、ベテラン役者たちの卓越した演技、観客を唸らせる演出、前作以上の音楽、等いろいろ見どころ満載なのですが、ここはフットボールブログであり、スコットランドサポートブログなので、その観点から見ることをお勧めしたいと思います。
見所その1 スコティッシュフットボールとカルチャーが垣間見える。
主役のレントン、シックボーイ、スパッド、ベグビーの4人はエジンバラ出身のカソリックの労働者階級という設定です。
T2ではシックボーイ(サイモン)の経営するパブに、応援する「Hibernian」のスカーフが飾られ、作中ではマンチェスターユナイテッド退団後、北米リーグなどを転々とした後、キャリアの最後にそのエジンバラのハイバーニアンに所属した、ジョージ・ベストの話題が出てきます。
この作品の原作者のアーヴィン・ウェルシュがエジンバラ出身のため、彼の書く物語の多くの舞台設定をエジンバラにしていますが、主役の4人はエジンバラでも北側のフォース湾に面した港湾地区、リースの出身としています。
エジンバラに移住してきたカソリックのアイルランド移民が住み着いたのがこのリースで、貿易などの、商業の起点ではありますが、リバプールとマンチェスターの関係と同じく、リースに入ってきた貨物や商品はエジンバラの中心地に持って行かれ、港湾地帯には貧しい労働者が生活する場所となっていました。
そのリースで結成されたフットボールクラブがハイバーニアンです。
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ハイバーニアンは1950年代にはヨーロッパを代表するクラブとして、イングランドのウォルバーハンプトンワンダラーズとともにチャンピオンズカップ(現在のチャンピオンズリーグ)を開催するきっかけとなったクラブでもあり、1953年のエリザベス2世女王戴冠記念で行われたコロネーションカップで、イングランドの強豪(トットナム、アーセナル、ニューカッスル、マンチェスターユナイテッド)とグラスゴーのオールドファームが参加したトーナメントで決勝まで進み、圧倒的な下馬評を集めながらも11万7千人を集めたハンプデンパークで、格下と思われたセルティックに0-2と敗戦したものの準優勝に輝きました。
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その後のハイバーニアンは、オールドファームから圧倒的に差をつけられ、さらにはエジンバラの仇敵、ハーツにすらも後塵を排し、一時は買収騒動、ハーツとの合併話まで実現寸前までいくという状態にまで行きました。
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現在も2部チャンピオンシップでニールレノンの元首位を走り、ジェイソン・カミングス、ジョン・マクギンなど将来性豊かな選手を排出しながら、いかんせんセルティックとの差は如何ともしがたく、スコットランドのトップクラブに帰りざくという可能性は現状かなり厳しいと言わざるをえません。
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と、ちょっと長くなりましたが、そこでハイバーニアンのファン、だけではなく、イングランド、スコットランドに数多いる古豪クラブのファン、特にオールドファンは、現在のチームの話題よりもむしろ、「過去の栄光、名選手、名試合」
の話題を何度もいつでもするのが、お約束なんです。(昔の野球ファンも一緒ですよね)
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だから、(やっと本題に戻りました)作中では、彼ら(レントンとシックボーイ)が、酔って話題に出すのは、現在のハイバーニアンではなく、彼らの少年時代の70年代後半に一瞬だけスポットライトが当たったジョージ・ベストの話題になるのです。レントンの赤はマンチェスターユナイテッド、シックボーイの緑はハイバーニアンのシャツをきてジョージベストの映像を見て盛り上がるのが、彼らの熱いポイントなんですね。
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もし、イングランドやスコットランドのフットボールクラブでも現地のファンと仲良くなりたいのであれば、現在のチームの話題だけじゃなく、彼らの熱いポイントである、伝説の試合や名選手、栄光の時代を事前に検索して話題に出せば、必ずビールの5杯10杯はおごってくれるでしょう。
見所その2 セルティックファン最大の見どころは、16xx!!!(ちょっとネタバレ)
ヒブスの話題とちょっと分けて書いて見ますが、エジンバラのハイバーニアンとハーツの関係は、もちろんグラスゴーのセルティックとレンジャーズの関係の縮小版と考えてもいいかと思います。
イングランドでもアイルランドでもない国であり文化でもあるスコットランドでは、エジンバラ、グラスゴー、ダンディーなどの主要都市では、必ずプロテスタントとカソリックの宗教対立、コミュニティが存在します。
フットボールにおいても長い間各コミュニティの象徴としてクラブが中心に存在し、ファンはどこにいながらも自分たちのコミュニティ、アイデンティティを確認していました。
セルティックとレンジャーズが、長年カソリックとプロテスタント、アイルランド共和国主義者(リパブリカン)と、大英帝国統一主義者(ユニオニスト)、北部アイルランド(北アイルランド)における、IRA(アイルランド共和国軍)とUDA,UVF(アルスター地域のプロテスタントによる自衛組織)の代理戦争的な意味合いが強い時期もありました。
その各コミュニティで、それぞれの歴史、地域、文化を維持、教育、啓蒙するための宗教的な儀式やイベント、お祭りなどが定期的に行われているのですが、そこはやはりなかなか外部のものからは見ること、知ることが出来ません。
それを見ることのできる機会がやはり映画だったりドキュメンタリーだったりします。
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この映画でもそのコミュニティでのイベントをリアルに見ることができます。これは必見!!!
セルティックファンの友達もほとんどが「そのシーン」に、狂喜乱舞しています!
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映画内でもかなり詳しく説明のアフレコが流れていましたので、なんとなく理解できると思いますが、おそらく、劇場内で見た観客の中で「あのシーン」のリアルな意味と、盛り上がったのは、ほぼ自分だけじゃないかなー、と思っているのですがどうでしょうか。
ちなみに、宗教や国の象徴として、フットボールのクラブでもカラーは非常に重要な意味を持っています。アイルランドの国旗は緑と白とオレンジですが、これは、緑=カソリック、オレンジ=プロテスタントとの融合=白という意味であの3色になっています。
レンジャーズのチームカラーは青、もしくはユニオンジャックの赤、青、白ですが、彼らのことを「オレンジ xxxx」(xxxxは放送禁止用語なので割愛)と呼ぶこともあります。それを事前に頭においた上で見ると、100倍!とは言わないですけど、数倍ぐらいは見応えが上がるのではないでしょうか。
見所その3 現在のエジンバラとグラスゴーが見れる!
前作のトレインスポッティングでは、舞台はエジンバラながら撮影はほとんどグラスゴーで行われましたが、今回はエジンバラが中心ながら、グラスゴーで撮影されたシーンもいくつかあります。
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象徴的な、トレインスポッティングでの最初のショップリフティング(万引き)をして店員に追っかけられて逃げ回るシーンはグラスゴーですし、T2でもなんと、ちょっとだけグラスゴーを象徴する銅像も現れます。
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エジンバラでは、エジンバラ空港、エジンバラ城や、ウェイバリー前のプリンシズストリート、ロイヤルマイルやオールドタウンの他に、ハイバーニアンのホーム、イースターロードもほんのちょっと出てきます。さらには日本人も建築に関与した鉄道橋フォースブリッジまで!
スコットランド自体も映画産業に好意的ですし、映画産業の中心はグラスゴーでもあります。
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シックボーイのサイモン役でもあるジョニー・リー・ミラー(イングランド人でチェルシーファン)以外は、ユアン・マクレガー(パース出身、フットボールファンではない)、ユエン・ブレムナー(エジンバラ出身、おそらくハイバーニアンのファン)、ロバート・カーライル(グラスゴー出身、なんとパーティック・シスルのファン)とスコットランド人俳優に固められ、スコットランドのアクセントはもちろん、スラングなども満載です。
普段話題にできないような好きなことを書きすぎてちょっと長くなりましたが、(汗)映画中ほとんどセルティックは出てこないものの、フットボールやスコットランド、セルティックを取り巻くコミュニティの対立などいろいろ共通するキーワードを持って鑑賞すると、全然楽しさが違ってくるのではないかと思います。
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また、T2だけじゃなく、前作のトレインスポッティングや、同原作者が作った今度は反対側のハーツ側の物語、「フィルス」(セルティックファンのジェームズ・マカヴォイ主演!)も合わせて観ると一層面白さはますのではないかと思います。
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ぜひ上映中に劇場でご覧になってみてください!
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- #UKフットボール, #スコットランド, #ヨーロッパサッカー, #海外サッカー, #T2トレインスポッティング, #エジンバラ, #ハイバーニアン
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