Hail Hail

第1章 太陽の地(原題:A Place in the Sun) その3

 

試合当日、キリスト教の聖体の祝日でチーム内のカソリックの選手たちは(リスボンライオンズの選手の中にはプロテスタントの選手が4人いた。)ミサへ出かけた。それは昨日の散歩で生還したことに対する感謝、ではなく聖日の儀式に参加するためだった。

カソリックの選手たちは、近所の教会に参加し、ステイン他プロテスタントの選手たちはホテルに残っていた。

儀式の後、彼らは庭園周りで短い奉仕活動をし、軽食を取った。その後次に行われる試合に向けて2~3時間の休息をベッドで取った。

全ては整ったかのようだった。しかし、なぜだか全てはスムーズにいかなかった。

とっかかりはある選手が午後の休息か突然起き出し、怒りに顔を歪ませていた。
モーカンはジム・クレイグの部屋に現れ、彼の激しい叱責に驚いた。(ジム・クレイグはセルティックの左サイドバック、ニールモーカンはチームトレーナー)

”ニール!ごく稀にしか知らない誰かが、トミーゲミルと共有している部屋に入り込み、スパイクはどこだと聞いてきたんだ。自分のスパイクを指さすと、”チームはアディダスと契約しているのになぜお前は唯一プーマなんだ。私はそれを黒に塗り替えプーマのロゴを隠し、白でアディダスのマークをぬってくる!ひどい迷惑だ!”と罵ったんだ。

彼がスパイクを塗り直している間、ちょっとだけ彼を通して緊張してたと言えるだろう。
キックオフの数時間前に自分のスパイクを塗り直すために取り上げられたんだ。眠りを妨げられた上に新しいスパイクで試合に臨まなければならないなんて!”

午後3時、それまで何事もなく過ごしていたかのように選手たちはバスに乗り込み、短い時間ながら湾岸線を決戦の地、エスタディオ・ナシオナルに向けて移動した。

しかし、あろうことかポルトガル人ドライバーは、なんとスタジアムまでの道を覚えてなかった!

しばらくした後、バスの中で誰かがこう叫んだ。”ボス!このバスは間違った道を走ってます。周りを走る車を見てください!”
彼らは道に迷った。そしてドライバーにメインロードへ引き返すように指示した。それから渋滞にはまってしまい、時間は過ぎていった。

選手たちは徐々にイライラし出した時、完璧なパスを出すミッドフィールダーの、ボビー・マードックは、自然と論理的な返答で、今にも爆発しそうなテンションを和らげた。”俺たちが来ないと奴らは試合は始められないぞ” と伝えたのだ。

しかしながら、この遅刻は彼らに有利に働いた。彼らが到着した時、ピッチをチェックした後、ドレッシングルームへ戻るってきた頃には、もめてる時間などほとんど残っていなかった。

彼らは準備に相当慌ただしかった。

バーティ・オールドは極めて冷静だったのだが、ドレッシングルームの壁かけにきちんと吊るされたありふれたジャージに驚いた。”初めに見つけたのはジャージ(ストリップ、ユニフォーム)の色だった”と、彼は思い出した。
”もしかしたら太陽の光が注いでいたからかもしれない、確かではないけど。でも、ジャージの色が今まで見たこともないような輝きを持つ緑と白だったんだ”

”おそらく今までと同じジャージだったと考えるだろうけど、本当に見たこともないほど鮮やかに見えたんだよ。”

”これはすごく印象深かったね、特別なハレの日に着るスーツを着る時の状況、なんだかあれにすごい似ていたね。”

”ドレッシングルームでいつもとなんら変わらない冗談が交わされてると、キックオフ直前に監督がやってきて、毎回行なう、いつもの有名な習慣を行うんだ。彼は左足を持ち上げ、床に落ちているものをパスするんだ、例えば、予備の靴紐とか、紙くずとかちょっとした泥の塊とかね。

その後、彼は一旦ちょっと身を引きスタジアムでかつてやってたように蹴る動作をするんだ、おそらくほんのちょっと神経質になってるのかもしれないけど、ただそれだけのことさ。

それでこの日も彼は全く同じことを行っていた。ドレッシングルームに入ってきて床にあった何かを蹴ってから口を開いた。その後彼の言ったことは生涯忘れることはないだろう。彼が話したのはチームトーク(戦術的な指示、やモチベーションアップ)ではなく全く違うことだった。

すごい情熱的に話すでもなく、ただ、正直に伝えてきたこの言葉は、これ以上ないほど選手にとって効果的だったんだ。

”いいか、お前達が歴史を作るんだ。 さあいけ、そして楽しんで来い”



その後、選手達はピッチへと続く長く暗い地下のトンネルを目の前に整列した。
彼らは、ラインナップで呼ばれる順番に並び、イタリア人と並び立ってゆっくり歩いて行った。

何人かの選手は、いつもの試合前と違って、そこに立っている時間が永遠に続くように感じられた。

バーティ・オールドはこう述懐した。 有名なインテルの選手たちが、チームメートに対して最初の威圧によるプレッシャーを与えてきたのが見えた。

チームメートで最初に彼らに注目したのは、ジミー・ジョンストン(セルティック史上最高の選手、MF、ドリブラー)だった。
”マジか! (インテルの選手は)まるで映画スターのようだ!”
これに対し、数人から神経質な笑い声が漏れたが、オールドはインテルの選手がそれほど印象的だったことを認めた。

”確かに彼らは映画スターのようだ! 彼らを見てごらんよ! 髪は濃くてバレンチノのように全て撫でつけられ(オールバック)あたかも全員ブリリアンティン(ヘアオイル)のモデルのようだ。 ブロンドで体躯も大きく、ハンサム、男性としてものすごい均整のとれた体躯をしている。

そして全員、日焼けをしていて、何か塗布薬か何かが肌に塗られキラキラと輝き、歯も真珠のように白く輝いている。正直彼らは特別に見えたよ。”

畏怖に対する特効薬は何か他にインテルの選手を圧倒するものでなければならないと、オールドはとっさに気づいた。

彼は突然他でもない” The Celtic Song ” を歌い出した!
”ヘイル、ヘイル、ザ セルツ アー ヒア!♫”

と歌いだすと他の選手もそれに合わせて歌い出した。

ある種、挑戦的にコーラスが高まっていくとき、インテルの選手たちは歌うセルティックの選手たちを不可思議な目で見つめていた。

完璧なグランドオペラ以上に興味を持ったかもしれない何人かの対戦相手は、ヴェルディではこのような鼓舞する曲はつくれず、グラスゴーのコメディアン、グレン・デイリー(The Celtic Songの歌手)ならそれができることを思い知った。そして彼の曲は今でも必要な時に歌われている。

歌の勢いは衰えることを知らず、入場開始の合図が出るまで続いた。

ピッチへ出る階段の上で、選手たちが階段を上っている時、試合を通してステインのそばに座り続ける控えのゴールキーパー、ジョン・ファロンへ吠えるような命令が飛んだ。

”我々は長いトンネルから出て階段の最上段に足がかかった時、ステインが俺に対して叫んだんだ”
”おい!ジョン、奴らより先にセンターラインの近くのベンチを抑えろ!”

それで俺はダッシュで彼の指示するベンチへ向かわなければならなかった。

ベンチを確保した時、まだ選手たちは、整列する場所まで半分ぐらいのところにいたし、まだピッチへの階段を上がっているものもいるのに気づいたんだ。大したことではないかもしれないけど。

ステインは、たとえそれがたった数インチの差であっても、エレニオ・エレーラ(インテルの監督)を遠ざけたかったんだ。

インテルの選手たちが来た時、俺はベンチに座ってあたかも自分の準備に集中しているように見せた。奴らは俺をどかそうとしてさらには警備をしているポルトガルの警察にも退かすよう頼んだんだ。

それに対して俺は、最上級のブランタイア(グラスゴー郊外の町)マナーでもって、出て行くよう警察に伝えたんだ。
そしたら、警察は俺たちの側を味方して、”違う違う、こっちはセルティック側だ!” と言ってくれたんだ。
イタリア人は激怒していたけどね。

さて、もちろんこれで俺の間抜けなベンチを確保する仕事は終わった。これでステインはあたかもどこに座ろうが関係ないように威厳に満ちた態度で動き回れることになったんだ。

しかし、彼はエレーラに対して一つの楔を打ったんだ、このことはエレーラに対するステインの初めて勝利だった。我々は彼らよりもハーフウェイ、(センターライン)の近くにいるというね”